8月15日というと東京裁判は季節ネタみたいなものだが、本書はその少数意見としてA級戦犯を全員無罪とする意見書を出したパール判事についての本だ。著者は『中村屋のボース』でひとりの亡命インド人の運命を描いたが、今度のテーマはやや手に余ったようにみえる。本書の大部分は、パール意見書の紹介に費やされており、予備知識のある読者には退屈だろう。 パールが多数意見に反対した最大の理由は、事後的に「平和に対する罪」などという罪名をつくって裁くのは罪刑法定主義に反するという法律論だったが、その背景には、母国インドでイギリスの過酷な植民地支配を受けた経験があった。これに対してガンジーのとなえた非暴力主義は、植民地支配に対しては何の力にもならなかったが、独立後のインド人の精神的な支柱となった。したがってパールは、むしろ絶対平和主義や世界政府を望んでいたのである。 東京裁判については、これを民主主義の全体主義