映画『HELLO WORLD』を愛してくれた全ての人に、感謝を込めて。脚本を手掛けた野﨑まど氏による書き下ろし小説「遥か先」をお届けします。ナオミと過ごしたあの日々から約一か月、直実はある悩みを抱えていた──。※この小説は映画本編の後日談につきネタバレ要素を含みます、映画をご覧になってからお楽しみください。 (一) 強い光が、ガラス張りの校舎に跳ね返る。光はそのまま地面へと突き刺さり、コンクリートを焼いて、京都の街を熱する。 夏が始まっていた。 七月の下旬、宇治の花火大会から三週が経ち、錦高校の夏休みも目前に迫っている。 校内を行き交う生徒達は、どこか浮足立って感じられた。進学校である錦高校では、夏季休暇の間も学習プログラムや補習が多く執り行われていて、何もない休日はそう多くない。けれどそんな事情を差し引いても、“夏休み”という言葉が十代に与える影響は絶大だ。生徒達は様々な期待で心中踊り出