100歳 としをとるということは、 ぼくが終わっていくのではなく、 世界が終わっていくということなのだけど、 きみがいつも出かける西の果てにはなにもなく、 白い海と白い空が混ざりながら光っている。 そこへ向かうきみの体と、 そこから帰ってくるきみの体が、 同じなのかはわからない。 ただ、きみはきみの家を知っていて、 鍵を持っていて、冷蔵庫の中身を覚えている、 だから、今晩もここで眠る。 ぼくが町の南を見たとき、空の左手が、 ビルの、白壁に定規をあてて、 影と光の境界線をひいた。 息を吸いながら、吐きながら、 その線がゆっくりと動くのを見まもると、 ぼくは、植物よりも動物よりもコンクリートが、 この世界にうまれるべくしてうまれた、 赤ちゃんかもしれないとおもう。 365日かけて、365回、 あの左手はひたいを撫でてくれていた、という、 そのことを知らずに、 生きてきていた。 ぼくらにはそれは
“きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、誰も愛さないあいだ、きみはきっと世界を嫌いでいい。そしてだからこそ、この星に、恋愛なんてものはない” “水のように、春のように、きみの瞳がどこかにいる” “会わなくても、どこかで、息をしている、希望や愛や、心臓をならしている、” “きみが泣いているか、絶望か、そんなことは関係がない、きみがどこかにいる、心臓をならしている” 女性のモノローグが、地下水のように濁流となって、とめどなく流れ出てくる。他者の無意識を呪い、おのれの自意識を呪う。今ここに立つ東京という街を呪い、捨て去った故郷の暗い過去を呪う。つまり、世界を呪う。この女性主人公・美香(石橋静河)は東京で看護師として勤めながら、夜はガールズバーでアルバイトしている。看護師の給料だけでは実家への送金がままならないためである。病院では、自分が看護していた患者が死ぬたびに、遺族から「どうもお世話にな
※サイン入り書籍のプレゼントキャンペーンは終了しました。たくさんのご応募、ありがとうございました。 詩や小説、作詞、さらにインターネットでも、さまざまな文字表現のジャンルで活躍している最果タヒ(id:m0612)さん。ブログに投稿したエントリーや、雑誌へ寄稿した文章をまとめた初のエッセイ集『きみの言い訳は最高の芸術』(河出書房新社)が刊行されました。新刊について、文章について、ブログについて、最果さんにお話をうかがいました(サイン入りの新刊を記事末でプレゼントします)。 ふと誰かとすれ違えたような感覚になってもらえたら嬉しい ― 初のエッセイ集『きみの言い訳は最高の芸術』刊行おめでとうございます。最果さんの著作には印象的なタイトルが多いのですが、今回の作品もまた「言い訳」と「芸術」というあまり結びつかなそうな言葉が並んでいますね。 生きることは言い訳をしていくことだな、と思います。でも、そ
私は考えるのが苦手で、何か考えようとか、思おう、とか、しようとしても空洞の中に空気が通るようなあんなじーんという音しかならず、でも言葉を書こうとすると言葉が代わりにかんがえたりおもったりしてくれて、まるで私が感受性豊か、みたいな錯覚をさせてくれるので好きなんです。絵の具とかも、あって、ぬりたくれば鮮やかなものが見えてきて、たとえ想像力がなくても手を動かせばカラフルなものが見えてくるというの、本当に魔法だと思うし、言葉もたぶんそういうのに近い。粘土とか絵の具みたいに小さな子が気軽にそれで「遊ぶ」っていう習慣はなかなかないけど、歌とかがそーいうのを助けてるのかもしれない。言葉を書くっていうことがもっともっとみんなの身近な遊びになればいいのになあ。非常に勝手なことかもしれないが時々そんなことを思う。 文章を書いてそれでお金をもらっているけれど、結局言葉は私のものでは決してないし、みんなが所有して
わからなくなりたい。あのころ大好きだった映画や音楽や本が、今見るとどうしていいと思ったのかちっともわからない、みたいなことが溢れるような人生でありたい。おいしいとおもっていたファーストフードが受け入れられなくなったり、逆にあのころ大嫌いだったものが美味しいと感じられたり、そういうことの繰り返しで、細胞よりももっと明らかに私という存在は生まれ変わり続けるなんてふざけたことを思っている。今、好きだと思ったものが、そのうち大して好きじゃなくなるんだろうという予感とともに、なにかを好きになっていくのは居心地がいい。なにもかもは使い捨てだと思う。なにもかもは使い捨てでいいと思う。ときどき、昔から好きなままのなにかが現れて、「うわっ」と驚くぐらいでいい。 どうしてあんなに夢中になれたのかわからないと、友人が過去の映画について話していて、それはもう少し昔はもっともっと困惑に満ちた台詞だったし、確実にきみ
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