この歌集評を書こう、という段になって、「あとがき」の余白に私の文字で「偶発的必然について」と記されているのをみつけた。本書を何度か読むあいだに、過去の私が、そう書きたくなったのだろう。過去の私から、いまの私への手紙のようだ。本書を通読すると、このテーマ、ないしアイディアを私にもたらしたとおぼしき歌が三首ある。 たった三首、とはいえど、やはり《必然》の語は、それぞれの作品においてなにがしか異様な感触を湛えている。一首目、《必然》的なのは語り手の出生地とも、《台風》の進路のこととも読めるが、同時に双方を意味しているのだろう。語り手にとって《この場所》は《必然》であるが(語り手は《わが母》以外からは生まれ得ない……言葉遊びのようだが)、《母》にとって妊娠出産の時期・場所、パートナーは偶発的なものだろう。つまり【必然的である事柄の、条件はつねに偶発的】である。一首目は、このテーマがもっとも明白に現