樋口由紀子の第三句集『めるくまーる』(ふらんす堂)が発行された。 「あとがき」には次のように書かれている。 「第一句集『ゆうるりと』(1991年刊)第二句集『容顔』(1999年刊)から十九年ぶりの川柳句集です。句集を出したいと思いながらもなぜかぐずぐずしていました」 19年の歳月は生半可なものではない。 セレクション柳人『樋口由紀子集』には『ゆうるりと』『容顔』以後の作品が若干収録されているが、まとまったものとしてはそれ以来となる。その間、何が変化し何が変わらなかったのか。 なにもない部屋に卵を置いてくる 『めるくまーる』のなかでも多くの読者の印象に残る句だろう。 「なにもない部屋」がある。「虚無」と言ってもよい。そこには本当に何もないのだ。「卵」はものを生み出す根源的なもの、などと比喩的に読まない方がいい。ただそこに卵をそっと置いてくるという能動的な意志がある。 高校生のころアンドレ・マ