質問文に主語がありませんが、それは任意の主語に対して成り立つ質問であると解釈してよろしいのでしょうか。だとしたら、その質問はほんとうに穿った質問ですね。いまのぼくにうまく答えられるかわかりませんが、できるだけ言葉にしてみたいと思います。 なるほどおっしゃる通り、僕にとって目に見えるものも見えないものも、手で触れられるものも触れられないものも、耳で聞き取れる音も聞こえない音も、それら任意の対象すべてが一ノ瀬ことみです。そしてとても残念なことに、すべてが一ノ瀬ことみであるということは、同時にすべてが一ノ瀬ことみではないということと完全に等価なのです。 僕がこのことに気付いたのは、たしか去年のある夏の日ことで、その日ぼくは実家の床の間でカフカの『城』と添い寝していました(そのときは『城』の面白さがよくわからず、『城』を読み始めるたびにすぐ眠ってしまったのです!)。すると無人の居間から突然物音