「ねエ、プロヂユーサー」彼女は私の事をさう呼ぶのである。「秋葉原にはよくお運びになるんでせう。私なんざこんな身の上ですから何時もバスの窓から見るばかり。」それア隨分と大車輪だ、と返せば此んな事を訊いてくる。「女給カフエーにネツトカフエー、最近は妹カフエーやら執事カフエーまで在るつて謂ふぢやアありませんか。私なんざまだ二十歳前ですからまだまだ若いと思つてゐたら、もう目が回るやうで。プロヂユーサーはお這入りに爲つた事があるんでせう。」妹カフエーは早晩廢業するといふ事なので餞別代りに昨夜覗いて來たと謂へば「アラ、その年で妹ですか」などと靜かに笑つて律子は火鉢に鐵瓶を翳しながらかう返してきた。「お茶位でしたら此方で淹れてご覽に入れますのに。男の方つて本當に滑稽。」