寄稿・金原ひとみさん 小説家 休日の昼下がり、編集者が日本から送ってくれた本の束から一冊選び、ベッドに横になって読みながら、眩(まぶ)しくて電動シャッターを少し下ろした。本は緩やかに面白みを増し、このまま昼寝でもしてしまおうかと思ったその瞬間、唐突に郷愁を感じて文字を追う視線を宙に泳がせた。 「そうか、私はこんな感じだった」 そう気づいて、何かが胸から全身に広がっていくのを感じた。それまでも少しずつ戻りつつあったのだろうけれど、はっきりと認識したのはこの日が初めてで、それはつまり、「子供を産む前の自分」と邂逅(かいこう)した瞬間だった。 「今日を乗り越える」の繰り返し もう会えないのかと思ってた…
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