「伊勢物語・第六段「芥川」 Isemonogatari (4分45秒) よみ:日高徹郎 昔、男ありけり。女のえ得(う)まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに来(き)けり。芥川(あくたがは)といふ河を率(ゐ)ていきければ、草の上に置きたりける露(つゆ)を、「かれは何ぞ」となむ男に問ひける。 ゆくさき多く、夜もふけにければ、鬼ある所とも知らで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる蔵に、女をば奥におし入れて、男、弓・胡(やな)ぐひを負ひて戸口に居(を)り。はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに、鬼はや一口に食ひてけり。「あなや」といひけれど、神鳴るさわぎに、え聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、見ればゐて来(こ)し女もなし。足ずりをして泣けどもかひなし。 「白玉かなにぞと人の問ひし時露と答へて消えなましものを」