厄介な上司がいる。嫌いな人ではないので、よく飲みに行くのだけれどひとつだけ困った癖がある。本人に悪気がなく、大真面目なので対応に困ってしまう。毅然とした態度で「結構です」ときっぱりと言ってやればいいのだろうが、彼が悲しそうな顔をするのは見たくないので、その一言が言えずにいる。 僕はほぼ毎晩飲みにいく。たいていは安居酒屋だ。そこで酔っ払ってニタニタしたり、バイトのお姉ちゃんのオッパイを眺めながら「『幻魔大戦』逆さまに読むとなーんだ?」なんて言ってからかったりして過ごすのが日課だ。そうやって一日一日をなんとか乗り越えている。 上司や同僚が一緒でも居酒屋での行動は変わらない。僕にはそれしかない。厄介な彼は、そんな弛緩しきっている僕を掴まえては、「目が死んでいる」「勝負が出来ない顔だ」と罵る。そして「オマエのためになる本を貸してやろう」と言い残して終電に飛び乗り、翌日、本を持ってくる。迷惑な話だ。