田中:でも、時代は変わっても、「40代ならひとかどの人物でなければならない」という周囲の期待は、『笑ゥせぇるすまん』の頼母さんの頃と同じだと思うんです。そして、頼りにされるばかりで、僕らが頼るものがないという図式も変わっていません。 山田:言われてみればそうかもしれませんね。 田中:たとえば、2017年に発表された村上春樹の『騎士団長殺し』の中にも、36歳の画家の主人公が、次にように語る場面があります。 “私は36歳になっていた。そろそろ40歳に手が届こうとしている。40歳になるまでに、なんとか画家として自分固有の作品世界を確保しなくてはならない。私はずっとそう感じていた。40歳という年齢は人にとってひとつの分水嶺なのだ。そこを越えたら、人はもう前と同じではいられない。それまでにまだあと4年ある。しかし4年なんてあっという間に過ぎてしまうだろう。(村上春樹『騎士団長殺し』新潮社、2017年