マグリットの絵の最大の特徴は、コップやテーブルやドアや窓や靴など、日常見慣れた事物をモティーフにしている点である。しかも彼はそれらを極めて写実的に描写する。だから鑑賞者は描かれたモティーフに親近感を覚える。しかしそれ自体では何の変哲もない対象も、いったん他の対象と関係づけられると、突然日常性が消え去り、非現実的な空間が現出する。同じ画面に日常性と非現実性が共存していることにより、見る者は動揺する。鑑賞者はもはやそれを逸話として、あるいは別世界の出来事としてつきはなすことができない。このときすでに鑑賞者はマグリットの罠にはまっているのである。 マグリットの出発点はつねに日常的な現実、言い換えれば可視的な世界である。マグリットにとって芸術とは、この可視的な世界において不可視なもの、すなわち世界の神秘を喚起することであった。神秘とはこの世界の本質にほかならない。 「芸術は、世界がそれなしでは存在