「あ。もしもし。私だ。元気でやっているか」昨秋退職した役員Hからの電話。その声の以前と変わらぬ感が悲しみに変換されて、がつーん、と胸にキテしまった。Hからの着信と、取り繕った変わらない感は予測されていた。予測通りに電話がかかってきて、予測通りに以前と変わらぬ感がそこにあったのがやけに悲しかった。Hが、近い関係にあった現役社員に電話をかけ、、無茶難題を頼んでくることは、話題になっていた。僕は、Hが辞めたときの言葉を覚えている。「貯えはある。投資も始めてみた。40年以上働いてきて疲れた。休養したあとは、週2~3回で自分のペースで働こうと考えてる。ちょうど、知り合いの会社から人材育成部門の顧問に誘われている。友人と事業も考えている」 Hは嫌いな人間ではない。好きな人間でもない。いてもいなくても変わらない。僕にとっては、普段使わない非常階段の手すりのような存在。彼は役員/社員(従業員)のあいだに明