N会員 門 玲子 かど れいこ 女性史研究家 1931年 石川県加賀市大聖寺に生まれる。 『江戸女流文学の発見』により毎日出版文化賞。 掲載作は、平成十八年(2001)三月藤原書店刊『わが真葛物語 江戸の女性思索者探訪』の第一章「真葛小伝」を抄出。 只野真葛小伝 父と娘 只野真葛は江戸女流文学者の中では、ひときわ大きな異色の存在であるが、その生涯や作品が一般に広く知られているとは言いがたい。他の女流文学者たちも同様である。今、真葛の作品を論ずる前に、その生涯を一通り辿ってみたいと思う。 真葛の生涯を考えるときに、その父工藤平助の存在を抜きにすることはできない。父平助の活躍期と真葛の成長期は、綯いあわされた一本の綱のように絡まっており、また真葛の後半生も強く父に規制されている。 只野真葛は宝暦十三年(一七六三)、江戸日本橋数寄屋町で生まれた。名をあや(文・綾)という。あや子と自署している場合