フランスを中心とした近現代美術を研究している松井裕美さんの連載が始まります。松井さんの伸びやかな筆致に導かれ、ある芸術作品の手ざわりを想像したり、そうした想像から喚起される何かに身をゆだねたりすることを楽しみにしています。みなさまもぜひご一緒に。【編集部】 ルーヴル美術館に、興味深い一枚の素描がある(図1)。1775年にフランス王室によって購入された時、この作品はミケランジェロの「手」によるものだとされた。実際に描いたのはミケランジェロではなくてバルトロメオ・パッサロッティであったとする説、あるいはアンニバーレ・カラッチであったとする説もある。いずれにせよこの素描の「手」が誰のものなのかを最終的に決定づける見解は示されていない。 図1 作者不明(ミケランジェロ)《もう片方の手を素描する手》制作年不明。ルーヴル美術館(INV 717, Recto) この素描の興味深い点は、「手」の自己言及性
![掌の美術論<br>第2回 自己言及的な手 - けいそうビブリオフィル](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/b845ea1497ea40a07e2c61e377ca0c8d30fa0895/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fkeisobiblio.com%2Fwp%2Fwp-content%2Fuploads%2F2023%2F01%2Fbanner_matsui.png)