「手を出して」 無邪気に差し出されたその手を、 僕は優しく握りしめた。 「どういうこと?」 そう戸惑う彼女に対して、 「手、つなぎたいなと思って…」 そう返すと、 彼女も少し弾んだ声で、 「そうだね」って、 そう返してくれた。 エスカレーターを前にして、 一段先に踏み出した僕の後ろから伸びる、 白くて柔らかい手、 「リードしないと」 そう意気込む僕を気遣うように、 一段前に踏み出す彼女、 隣に並んでくれた。 「カッコつけなくていいよ」 その踏み出した一歩は、 そう伝えるかのようだった。 そんな二人を運ぶ十数秒、 「この時間が永遠に続けばいいのにな」 だけれどもそうは行かない。 ここから先は自分の足で歩くのだ。 結ばれた手をしっかりと握って、 二人並んでそれぞれが自分の足で歩くのだ。 歩幅がずれたっていい。 少しばかり休憩したっていい。 だけれどもいつも一緒に、 時には手を引いて、 時には手
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