中国の南西部四川省は、ふるくは蜀とよばれていました。唐王朝末期の木版印刷術の発祥地のひとつで「蜀大字本」と呼ばれ、 「字大如銭、墨黒似漆 thinsp;──thinsp;文字は古銭のように大きく、文字の墨の色は黒漆のように濃い」 とされます。 唐王朝ののち、五代十国の混乱をへて建朝された北宋時代にも、唐王朝官刊本の伝統的な体裁を四川刊本は継承していました。また女真族の金国との争乱に敗れ、都を開封から臨安(現・杭州)に代えて建朝された南宋での、刊刻事業の継続と、覆刻(かぶせぼり)のための原本の供給に、四川刊本は大きな貢献をはたしました。 ところが、こうした四川刊本も、相次ぐ戦乱と文書弾圧のなかに没して、『新刊唐昌黎先生論語筆十巻』『蘇文忠公奏議』『周礼 しゅらい』など、きわめて少数の書物しかのこっていません。その代表作がわが国に現存する『周礼』(静嘉堂文庫所蔵)です。 『周礼』の力強い字様に