『前の工場長も高卒で入った人だし、実績を残せば上がれると思うよ。』 咄嗟に出た言葉はあまりにも表面的で、響かない言葉だった。 『でも、先輩がそう言ってました。』 その返答に、私は言葉を濁すしかなかった。 当時、私はある大手消費財メーカーの研究開発職として働いており、担当商品が絡む新しい生産ラインの立ち上げに翻弄されていた。 普段は研究所に籠りきりだが、この時ばかりは工場から経理部、営業部まで毎日違う場所に顔を出し、新商品を形にするためにあらゆる手を尽くしていた。 製造現場で働く強面のスタッフに、『現場』を教えてもらいながら進める仕事は新鮮で充実していた。 『工場に足を運ぶ』研究員は珍しいらしく、現場のトップにも気に入られていたようだ。仕事帰りに工場のスタッフたちに誘われ、高そうな店でごちそうになったこともある。 自分は好かれている。 そう感じていた。 しかし、現場の高卒新人から突然投げられ