広島市安佐南区の八木・緑井地区は、標高586メートルの阿武山の裾野に広がる住宅地だ。山の斜面に張り付くように多くの戸建て住宅、アパートが並ぶ。同地区に暮らす男性(71)は、まさか自分が土砂災害の被害者になるとは夢にも思っていなかったと語る。 「私が30代でマイホームを建てた場所は、山の急斜面でした。広島市の中心部には車の通勤圏で、立地は文句ありませんでした。昔から雨が降るたびに水路を泥水が勢いよく下ってゆく光景を見てきましたが、裏の山が崩れて多数の犠牲者を出すとは誰も想像していなかったと思います」 2014年8月19日夜から20日未明にかけて降った大雨によって、広島市では市内107カ所で土石流が発生し、関連死3人を含む77人が犠牲となった。とくに八木・緑井地区は、1時間に87ミリという記録的豪雨に見舞われ、死者66人と被害が集中した。 あの日、土石流は阿武山の山裾を流れる複数の渓流沿いで発