中学、高校の頃に多くの人が『世界文学』への入り口で一度は出会う薄い一冊の文庫本、それがカフカの『変身』ではなかったでしょうか。 「ある朝、グレゴール・ザムザがなにか気掛かりな夢から眼をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な毒虫に変わっているのを発見した。」(高橋義孝訳) なにやらホラーめいたこんな言葉で始まるこの短編小説を、あなたはどんな気持ちで読みましたか? 何だか訳の分からない、不気味な小説、そんなイメージを抱いたまま読み終えてしまった人も多いでしょう。 あるいは という言葉をどこかで聞くか読むかして、「カフカ」というこの名前を、頭の中で、サルトルやカミュといったフランスの作家の名前のそばに「不条理」という分類項目をつけて置くことにした人もいるでしょう。 しかし、こんな不可思議な文章を書かなくてはならなかった(そうです、作家は「書かなくてはならない」と思うからこそ書くのです)