「劇場文化」掲載エッセイ 寺山修司と「毛皮のマリー」 北川登園 1974年の夏、私はほとんど演劇の知識がないまま無謀にもニューヨークへ出かけた。その年、ある新聞社の演劇担当記者になったばかりで、今はない東京キッドブラザースのニューヨーク公演を観るためだった。作・演出は東由多加で、劇団の主宰者でもあった。彼らはその4年前にも渡米し、ミュージカル「黄金バット」を上演した。この時、ニューヨーク・タイムズ紙は「すばらしいオリジナル・ミュージカル」と絶賛した。翌年は「八犬伝」、翌々年は「西遊記」を持って欧米を巡り大成功を収めた。 そして、74年は新作ロック・ミュージカル「ザ・シティ」公演である。埋立地を遊び場にしていた少年たちが、団地の出現で遊び場から追放される。少年たちはトマト・ゲームで、自分たちを閉めだしたガードマンに抵抗する。オートバイに乗って疾走し、団地の壁の寸前で飛び降りるゲームである。一