アポロ18号の殺人 上 (ハヤカワ文庫SF) 作者:クリス ハドフィールド早川書房Amazonこの『アポロ18号の殺人』は、アポロ17号でアポロ計画が終わり、その後宇宙開発が停滞に入ってしまった現代とは異なり、アポロ計画が18号まで持続し、さらに米ソの戦いが宇宙、月でも繰り広げられるようになった「架空の宇宙開発史」を描きだす宇宙SF長編である。近年、長らく停滞していた宇宙開発がコストダウンや民間企業の参入が重なってにわかに盛り上がってきているが、それに呼応するように宇宙SFのヒット作も(たとえば『宇宙へ』『火星へ』など)出始めてきている。 本作もいわばそうした流れに連なる宇宙開発ものの作品なわけではあるけれども、他作品と異なる本作ならではの特徴は、著者クリス・ハドフィールドが、カナダ出身の引退した宇宙飛行士であるという点だ。しかも、カナダ人としてはじめて宇宙空間で船外活動を行い、2回のスペ
ゴーレム 100 (未来の文学) 作者:アルフレッド ベスター 国書刊行会 Amazon アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』(100は本来べき乗表記)(渡辺佐智江訳、国書刊行会)は妙な本である。 ワイドスクリーン・バロックの大家・ベスターの持ち味である大風呂敷を広げまくる展開や、イラスト・タイポグラフィを用いた視覚的要素もさることながら、イドの怪物・ゴーレム100を召喚する有閑マダム・蜜蜂レディたちの喋り方や、ガフ語と呼ばれる近未来での一種の方言の訳し方などが、あまりにこなれすぎているのだ。 というか、あけすけに言うと、「絶対に(訳者は)ふざけてンだろ!」と思ってしまうほど、自由で闊達な訳文なのである。 だが……巻末の山形浩生氏の解説では、 だが原文とつきあわせるとわかる。あらゆるダジャレ、あらゆるお遊び、あらゆる下ネタは、すべて原文通り。これほどに忠実な翻訳はないとすらいえる代物が
『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』でも知られる三方行成氏による短篇「流れよわが涙、と孔明は言った」を無料公開します。どこに着地するのか誰にもわからない物語をお楽しみください。(編集部) 『流れよわが涙、と孔明は言った』書籍版 流れよわが涙、と孔明は言った 孔明は泣いたが、馬謖のことは斬れなかった。 硬かったのである。 「どういうことだ……」 孔明はうめいた。首切り役人もうめいた。馬謖もうめいていた。 概ね、同じ理由でうめいていた。 馬謖の首が落ちない。 首切り役人が斧を振り上げ、打ち下ろした。 がん、と岩を打ったような音に続いて、金属の音が響く。 汗みずくの首切り役人が斧を取り落としたのだ。 孔明は首切り役人を下がらせた。 次を呼び寄せる。 三人目である。 人の首は硬い。一刀のもとに断ち切るのは見かけほどたやすくない。だが、それにしても異常であった。 孔明は馬謖を見た。 馬謖はも
断絶 (エクス・リブリス) 作者:リン・マー発売日: 2021/03/25メディア: 単行本この『断絶』は、中国が発生源となる未知の病シェン熱が世界に蔓延し、文明が崩壊していくアメリカを描き出す終末ロードノベルだ。語り手は6歳の時に中国からアメリカへやってきた移民の女性で、長くニューヨークで暮らしていたが、徐々に崩壊していくその都市の写真をブログにアップし、崩壊の過程を記録していく。 いろいろとおもしろいところがあるけれど、まず目につくのは中国の深セン発の未知の病が世界中に広がっていく──という、今日の新型コロナの状況を彷彿させる世界観だろう。原書刊行は2018年だから、新型コロナ後に書かれたわけではない。 とはいえ、SARSからエボラまで致死的な感染症は溢れてきていたし、世界中の交通網が密になり、さらには家畜を密集させて少しでも効率をあげる手法や、抗生剤の乱用によってヤバい病気の蔓延は、
九重塔が宇宙船となり彼方の惑星にある大仏を訪れる仏飛(ぶっと)びSF 法勝寺(ほっしょうじ)の祈念炉は長い祈祷の果てに臨界に達し、第一宇宙速度に必要な推力が得られた。 そびえたつ九重塔は、宇宙の真理を解き明かした最新佛理学の結晶。異質な時空を切り裂き、彼方の星までわずか四十九日で到達する星寺だ。 目指すはここ閻浮提(えんぶだい)(地球)から三十九光年彼方の持双星(じそうせい)。 法勝寺は、医僧・巌真に率いられ、学僧・照海、機械僧・慧眼(えがん)、尼僧エマヌエルらを乗せ、宇宙構造を示す曼荼羅を星図として持双星に向かう。 七名の宇宙僧は、瞑想と呼吸法を鍛錬し、肉体と精神を制御することで宇宙での過酷な活動によく耐える。 持双星・紫釈院の大佛は百八十年ぶりに開帳される。法勝寺は、その開帳に合わせて転生佛候補のブリヤートの少女サルジェを紫釈院に送り届ける。 だが照海は、本山の大僧正から受けた秘密指令
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