クビになってよかった、と彼は言った。 彼はそれまで、自分は仕事が好きなのだと思っていた。毎日終電で帰り、ときには会社に泊まり、土日はどちらかだけ休み、そのうちほとんどの時間を眠って過ごした。彼はインターネット関連のエンジニアで、自宅にも仕事ができる環境を整備していた。それで彼は、家にいるわずかな時間にも作業することがあった。年末年始などで会社に入れないときには、自宅の環境はとくに役に立った。 昨年、彼の会社は大幅な人員整理をおこない、彼は事実上、解雇された。 彼は苛ついた。それから落ちこんだ。その次に彼は、職場でしていたようなことを自宅でするようになった。以前と同じように睡眠を削り、長時間ひたすらに。 彼の同業の友人は、その話を聞いてこう言った。 「次の仕事が決まるまで好きなものをつくるって、すごくいいことだと思う。僕がクビになってもそうする。だって失業したらたいていの人は自信をなくしちゃ
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