7月の終わり。降り続いた雨がようやく止み、雲間から太陽が見え始めていた日、足早に橋の上を通り過ぎようとしていた俺は火野正平とすれ違った。 彼に妙な違和感を感じて振り返りまじまじとその姿を凝視すると、彼は水を吸ってぶくぶくと膨れ上がっており、インクが染み込んだような紫色の肌をしていた。俺がすれ違ったのは火野正平の水死体であったのだ。 それから林真理子の水死体、観月ありさの水死体、田村正和の水死体が俺の横をてくてくと通り過ぎたあたりで、俺はようやく知らぬ間に世界が水没してしまったことに気づき「やばいな」と呟いた。呟いたときに漏れたゴボッという音と空へ上っていく気泡に恐慌状態をひきおこした俺は、呆然と気泡を目で追い続けて危うく太陽に目を焼かれるところだった。 急ぎ足で家に戻ると、案の定、室内は天井まで水につかっており、ありとあらゆるものが台無しになっていた。もちろんPCもだ。これがしばらく日記を