そのお願い通りのコーヒーであった。私は思わず言った。 「まずいコーヒーをお願いしてましたのに、おいしいコーヒーじゃありませんか」 皇后さまが変な顔をなさったとも思わないが、私は「まずいコーヒー」が登場するはずの経緯をお話しし、皇后さまは笑って下さった。舞台裏の話というものは総じて、寛大に受け取られるものである。 私は葉山の御用邸から20~30キロ離れた三浦半島の南端に近いキャベツ畑の中に週末の家を持っていて、時々、両陛下もお立ち寄り下さる。お目にかかれば必ず話題に出るのは、近隣の台地で栽培しているキャベツ、或いは今年の大根の値段である。今の農村は総じてお金持ちだが、それでも私は顔見知りの農家の方に会うと、すぐキャベツや大根の値段の話をする。その結果得た知識を、両陛下にもお伝えしたくなる。 「去年ハワイ旅行をした方たちも、今年、野菜のお値段が高ければヨーロッパ旅行にいらっしゃるんだそうです」