「今日は2冊」。がれきの中から自分の参考書を見つけた藤田利彦さん=宮城県石巻市で、2011年3月30日 母は苦手な分数の計算に手を焼くと、よく助けを求めてきた。「にいちゃん、算数、教えてよ」。宮城県石巻市の藤田利彦さん(48)は、そんな少女のようなひたむきな顔を思い出す。家計が苦しく中学までしか行けなかった母蓉子(ようこ)さん(72)は「高校で学びたい」と言い出し、医師を目指す藤田さんと一緒に机に向かった。母の夢。そして命。津波はすべてを流し去った。【水戸健一】 【東日本大震災】3月31日各地の表情 藤田さんは高校時代に父親を亡くし、卒業後は地元の水産工場で働いた。20歳の冬、蓉子さんに「勉強したいのなら大学に行っていいよ」と言われ、まだ願書が間に合い学費も安かった東京の私立大経済学部に入学した。その後は仙台市の予備校などに勤務したが、本当は「医者になりたい」とずっと思っていた。 蓉