「真っ赤なスポーツカーに乗って、鳥打ち帽をかぶって、派手な色のシャツを着てね、オシャレで粋な人だったよ」 二〇一〇年三月に韓国・釜山で亡くなった金嬉老(きん・きろう)の思い出を語るのは、静岡県掛川市内で理髪店を営む男性だ。金嬉老は掛川から七〇キロメートルほど離れた静岡市清水区(当時清水市)の生まれで、テレビを賑わせた殺人事件を同地で犯している。しかし、事件前には掛川市内に暮らしていたのだ。 金嬉老が通った理髪店 事件が発生したのは一九六八年(昭和四三年)、今から五〇年ほど前の話だ。彼のことを記憶している人物に出会えるだろうかと心配していたが、杞憂だった。理髪店の中で話を聞いた。 身だしなみにこだわっていたという金嬉老は、二週間とあけずにこの店に来ては散髪していったという。店主には心を開いていたようだ。 「スポーツカーにはいつもライフルが二丁積んであって、『おまえも撃つか? 河原で撃つと気持