1 世界を切り刻むもの 1年ちょい前に論文を提出した時、ぼんやりと思った。 対象を見ようと光を当てれば、必ず影になって見にくい部分ができる。ある部分を詳しく見ようと近づけばそれだけ 、全体像は見えにくくなる。前を見てたら、後ろは見えない。 言葉でなにかを思考するということも同じだ。分析のためにある概念装置を取り入れたとたんに、そこからごそっと抜け落ちるものが生じる。記述するということは、そこからは見えないものがあるということを受け入れて初めて可能になる。あらゆるものを同時に見るってことは無理なので、とりあえず今はこっちが見えなくなるのを承知の上であっちを見るという選択をするしかない。 何かを知ろうとする過程は、何かに目をつぶろうとする過程でもある。私は論文を書いてなんかわかったような気になっているが、じつはその分わからないことが増えたのではないだろうか…。 まあそんな、絞りカスみた