「古いお家に住んでみたい」 書店に並んだ京町屋の写真集に、 視線をおとしながら、君が言った。 「いいね」 僕はすかさず答えた。 それを聞いて嬉しそうに君は、 「住むなら明るいお家がいい」 と条件を追加。 だから僕も、 「風通しの良いお家なら、尚いいね」 と付け加えた。 八清 京都御所の南側、 麹町通りに面した奥路地にある京町家。 街中の暮らしに慣れた二人には、 便利な立地が好都合だった。 君は町屋の外観に 一目惚れしたようだったけど、 八清 僕は門扉の上に付いたまあるい照明の 可愛らしさが気に入った。 仕事で疲れて帰ってきた時、 この明かりが ぽわんと灯っているのを見ると、 「あぁ、家に帰ってきたんだなぁ」 としみじみ安心する。 そうしたら、緊張がほぐれるのか 突然にお腹が減ったりするから、不思議だ。 八清 ふたりの生活空間が分断されるような 仕切りが多い家は、 どこか寂しいと思っていた。