いつもはすっかり忘れていることが、ほんの些細なきっかけで心のなかに押し寄せてくる夜がある。楽しかった飲み会の帰りに信号待ちをしながら。友人の近況報告を聞いたあとのお風呂のなかで。待てど暮らせどやってこないバスを見限って歩く道の途中で。 「どうして他のひとにできていることが、自分にはできないんだろう?」 この気持ちにとりつかれたときは、静かにやり過ごすしかないことを知っている。慌てず、騒がず。けれど初期症状のうちに対処を誤ると、じわじわと心をむしばみはじめる。 「どうして他のひとにできていることが、自分にはできないんだろう?」 わたしは、人との会話のなかで空気を読むことができない。だから何度もとんちんかんなことを言って誰かを困らせてきた。困らせたという自覚もないまま。 わたしは、人の言葉の裏側を読むこともできない。だから額面通りに受け取ってしまって人間関係がうまくいかなかったこともたくさんあ