2023年4月29日のブックマーク (1件)

  • 村上春樹による村上春樹のリマスターは成功したのか――『街とその不確かな壁 』評

    ところで、大江健三郎が亡くなった直後に、村上の『街』が出たことにはやはりそれなりに象徴的な意味があるだろう。最後にそのことを述べておきたい。 先日リアルサウンドの批評(福嶋亮大の大江健三郎 評:《弟》の複眼――大江健三郎の戦後性)でも記したように、大江健三郎は戦後日を外部のない「閉鎖空間」として捉えた作家である。先行する安部公房が中性的な「壁」をテーマとしたのに対して、大江は「粘液質の厚い壁の中」に閉じ込められ「不思議な監禁状態」に置かれた若者を描き続けた(「他人の足」1957年)。この粘っこく濃密な空間のなかで、大江の主人公はいわば右目と左目で異なる世界を見るように強いられる――このパララックス(視差)にこそ、経験豊富な≪兄≫の世代の戦後文学者(野間宏や大岡昇平に代表される)たちとの違いがあることは、先の批評で詳しく述べたとおりである。 大江自身は「敗戦の現実に立ち、終末観的ヴィジョン

    村上春樹による村上春樹のリマスターは成功したのか――『街とその不確かな壁 』評
    k-yakou
    k-yakou 2023/04/29