日本人へ リーダー篇(へん) [著]塩野七生[掲載]2010年8月22日[評者]佐々木俊尚(ジャーナリスト)■大義なんてないからこそ 時代の変わり目を多くの人が感じているのか、NHKの大河ドラマ「龍馬伝」の影響か、「坂本龍馬」が大ブームだ。会社を辞めることを「脱藩」と称してみたり、いまの時代状況を幕末になぞらえる人が最近実に多い。本書もそういう歴史ブームの延長かと思って読み始めたら、実に気持ちよく裏切られた。 本書では古代ローマのさまざまな事例を引きながら、日本の政治と外交と言説をばっさりと断じている。その切り取りぶりはあまりにも小気味よく、読んでいて「そのとおりだ!」という気分にさせられる。たとえばイラク戦争についてのとらえ方。「これは単なる侵略戦争だ。アメリカに大義はない」といった言説が日本のマスコミ言論界には蔓延(まんえん)していたが、著者は「誰でも納得できる客観的な基準にもとづいた