『山海経』は中国最古の空想的地理書と目されるが、その内容は山川の地理、動植物や鉱物、山岳祭祀、辺遠の国々と異形の民、伝説上の帝王の系譜など多岐にわたる。その中には奇怪な姿の動植物や神々が多く記されるため、後世には専ら怪物事典として娯楽の用に供されるようになり、現在でも「山海経」でサイトを検索すると、怪物マニアの作った興味本位なサイトが多数引っ掛かる。しかし「魑魅魍魎の跋扈する世界」はあくまで『山海経』の一部にすぎない。 では誰がいつ、何のためにこの書を作ったのか。私自身はこの書の主要な部分は戦国末期までに成立し、成立場所は従来言われている戦国の楚国だけではなく、斉国の稷下学士も関与していると考えているが、この根本的な問題についてさえ、今もって定説はない。ただ諸説が一致するのは、「一人の人が一度に書いたものではない」ということだけである。全十八巻のこの書は五蔵山経(巻一~巻五)・海外四経(巻