「抱き枕はね、泣き枕なんだよ。でね、腕枕は夢枕なの」妻が寝室でそんなことを言うようになったのは「イジメ」の話題でニュース番組が騒然としはじめたこの初夏の頃で、妻は、中学生時代にごく短期的にではあるが無視、シカトという卑劣なイジメにあっていたらしい。当時、妻は毎晩枕を抱いて泣いていたそうだ。「悲しかった?」「ううん悔しかった」大丈夫これからは健やかなるときも病めるときも選挙のときも僕が守るから。抱き枕になって。腕を枕にして。 ナカムラのことを思い出す。四半世紀前。ヤンキー全盛期。僕が通っていた中学もシンナーカツアゲリーゼント暴力イジメ…それなりに荒れていた。中途半端に荒れた中学に二学期途中という中途半端な時期に転校してきたナカムラは、小柄で弱々しく、格好のターゲットに思われた。転校してきた当初、友人はおろか話し相手も皆無だったからだろう、ナカムラはいつもノートやプリントの裏にマジンガーZの落