美しい娘の物語は、年とった人たちの心にも、豊かな期待を起こさせるものと見えて、このわたしどもの国にも、そうした話がたくさん残っていて、幼い耳へ順ぐりに、吹き込まれ吹き込まれして参りました。これも、そう言う噂の一つなのです。 「神の嫁」折口信夫 「……なんだっけな、マーだったかな、マー君? いや、違う? ムーのあんちゃんよ、ようわしを見つけたもんよな。ようわしの話を聞きにきてくれたもんよな。そうよ、わしこそが、この国の天気を変えてな、国の形を変えた張本人よ。おう、ちょっとまってくれ、準メーンの発走だ」 ずぶ濡れになった、色とりどりの勝負服を身にまとった小さな小悪魔たちに導かれ、泥水を跳ね上げながら馬たちがゴール板を通り過ぎていった。老人は、紙の馬券を握りつぶしてぽとりと落とした。 「まったく、しょうもねえなぁ……。おう知ってるか、今の府中で走ってる馬の、八割はガリレオいう馬の血を引いとるんじ