Hallie Rubenhold『The Five』 19世紀のロンドンで切り裂きジャックに殺された5人は売春婦、というのが事件当時からの通説だった。犯人の正体について書かれた本は無数にあるのに、彼女たちは「売春婦」で一括りにされてきた。著者は膨大な史料に当たり、壮大なノンフィクションで、メアリー・アン、アニー、エリザベス、キャサリン、メアリー・ジェーンをよみがえらせ、5人が娘であり妻であり母親であり姉妹であり愛人であり、何よりも人間であったことを教えてくれた。 売春婦ではなかったとしても(25歳のメアリー・ジェーンは正真正銘の売春婦だった)、皆ロンドン東部の貧民街で極貧生活を送っていたのだろうという思い込みはあった。確かに1888年当時、惨殺の現場となった東部ホワイトチャペル地区にいた彼女らは人生のどん底にいた。だが、メアリー・ジェーン以外の全員40代の4人は、過去を隠すためにスウェーデ