◆志賀直哉『大津順吉・和解・ある男、その姉の死』岩波文庫、1960年3月 3つの作品とも、書かれていることが、なんだか分かったようで、実はよく分からない。3つの作品に共通しているのは、「父と息子の対立」なのだけど、両者の間の決定的な対立が分からないのだ。このことは、もう何度も言われていることらしいし、実際作者自身も「この小説の欠点として、よくあげられるのは和解は書いてあるが、その前の不和を具体的に書いていない、二人はなぜ、それほどに不和であったかという事がわからない」(p.286)ということだと述べている。続けて、志賀直哉は、この作品で書きたかったのは「和解の喜び」だったといい、それゆえに不和の原因は記さず、「和解の喜び」が表現できたことに満足しているという。 なるほど、たしかに父と息子が「和解」をしているのだけど、でもやっぱりその唐突感はぬぐえない。父を息子は、散々いがみ合ってきて、ちょ