辻仁成のエッセイには、学生時代までのエピソードを回顧する『そこに僕はいた』〈1992年〉『そこに君がいた』(2002年)、1990年代半ばの日記を中心にまとめた『僕のヒコーキ雲』(1997年)、パリに転居してからの日々を綴った『いつか、一緒にパリに行こう』(2005年)『黄昏のアントワープ』(2006年)など幾つかのタイプがある。 そうしたものと比べると、最初のエッセイ集ということもあり、自分の思考を初披露しているという点で(言い替えると初披露するのだという意気込みが強い分)、異質にして硬質な内容である。「あとがき」にもあるように、1991年11月の一時期に密室でそのほとんどを書き上げたということも、その理由であろう。 自分とは何か、孤独との向き合い方、時間の支配からの抵抗、死生観、友人、自由等について思考を巡らせ、初期の小説『クラウディ』(1990)『カイのおもちゃ箱』(1991年)の創