拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。さて本日は、人類にとっての大いなる害、いや癌であるのみならず、麻薬にして宗教でもあるという、まさしく最凶の物質と呼ぶにふさわしいタバコなるものをこの世から殲滅せんと日々奮闘しておられる嫌煙家のみなさまに、残念なおしらせをしなければなりません。みなさまの貴き聖戦をよりにもよって「ファシズム」呼ばわりする、言語道断、前代未聞、破廉恥きわまりない悪書『禁煙ファシズムと戦う (ベスト新書)』に、あろうことか増刷がかかってしまったそうです。嘆かわしいかぎりです。賢明なみなさまにおかれましては、このような汚らわしい書物に目を通されている方はあまりいらっしゃらないかと存じますが、何しろ主編著者である小谷野敦なる人物は、精神の自由を根拠に、嫌煙の趨勢には徹底抗戦すると宣言していたにもかかわらず、「美人に譲り渡すならいいんだよ」などと掌を返すような放言をする不