こうの史代の「長い道」はホラー漫画だ。この言切りは無理があるだろうか。実際、この漫画はいろんな技法が試されていて、かなり多面的だと思う。僕がこの漫画をホラーだと言いたくなったのは、「長い道」にいくつか差し挟まれているホラー的構成をもった挿話を拾い上げてのことではない。この漫画の底にある、夫婦というものへの、こうの氏のアプローチを指して「ホラー」といいたいのだ。それは、既成の漫画や映画、小説の「ホラー」というジャンルからはずれるかもしれない。 gooの辞書で調べると出てくる hor・ror :━━ n. 恐怖; (the 〜s) たいへんな悲しみ[悩み], 身震い; 嫌悪(けんお); 恐ろしい物[人] こういった「おそろしさ」を男女というものの基底におきながら、なおかつそれを受け入れてゆくような人の在り方が描かれたのが「長い道」という漫画なのだと思う。 具体的に作品を見て行くと、「おそろしさ
さようなら杉浦日向子さん 一九八二年、「ガロ」からマンガ家デビューして間もない杉浦さんとあった。可愛らしい色白のお嬢さんで、大きな目をクリクリッと動かしながら語る吉原や川柳の話はとても魅力的だった。それからは、読者として、江戸や明治に材をとったマンガ作品を楽しませてもらった。また、編集者として、エッセイ集やマンガ集など、二十数冊の本をまとめさせてもらった。 八六年、赤瀬川原平さん、藤森照信さん、南伸坊さんたちと路上観察学会を結成したとき、唯一の女性会員として参加してくれた。一緒に各地を旅行したが、町歩きを心底楽しんでいる姿が印象的だった。 九三年、「血液の免疫系の難病なんです」と告白された。骨髄移植以外に完治する方法はなく、体力的に無理が利かないのでマンガ家を引退することなどを淡々と話してくれた。それ以来、筆を折ることになったが、江戸や明治の生活風俗をていねいに描いたマンガ作品は、今でも燦
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