無料公開版の北条裕子『美しい顔』を読んだ。 その結果、頭に浮かんでは通り過ぎていったものを、通り過ぎていったまま、とりとめもなく書き連ねていこうと思う。だからこれは、どのような結論にたどりつくことも目指さない、ごくありきたりな『美しい顔』の感想、のようなものである。 正直ぼくは、賞ごとに関わる文学作品にほとんど興味を持たなくなっていたし、この作品が芥川賞候補になった時点でも、特に関心が向くことはなかった。そこには、二十年来小説家を自称しつつも、一度たりとて陽を浴びたことのない無名作家の、たった一作か二作で世に躍り出て華やかなスポットライトを浴びる作家に対する下卑た感情もあったりするのだが、そこには踏み込まずにおこう。 しかしながら、近年、一新人の文壇デビュー作がこれほどまでに議論の俎上にのったことはなかった。そういう意味では、まちがいなく『美しい顔』はひとつの〝事件〟であり、そこに、先ほど