駒野友一は立ち止まらなかった。 それまでは、どんな状況の時もキチンと立ち止まって、記者たちの質問に答え続けていた。質問がなくなるのを待って、チョコンとお辞儀をしてミックスゾーンを離れるのが常だった。 だが2010年6月29日だけは違った。ミックスゾーンに現れた駒野は決して顔を上げることなく、誰から話しかけられても一言も発せずに、トボトボとバスに向かった。誰も駒野を責めようとはしていなかったと思う。なぜなら駒野がPKを蹴るのは当然だったからだ。 南アフリカワールドカップ、ベスト16のパラグアイ戦は0-0のまま延長戦でも決着がつかなかった。日本が初めてベスト8に進出できるかどうかはPK戦に委ねられる。 後攻となった日本の3人目に登場したのが駒野だった。イビチャ・オシム監督時代、PKの練習で一度も外さなかった選手が3人いた。中村俊輔、遠藤保仁、そして駒野だったのだ。 それまで両チームとも誰も外し