不穏な空気に誰もが身を潜めた 雨の雫がぽとりと落ち やがて灰色の空から激しい豪雨が地上に降り注いだ 家路を急ぐ傘の群れが 足早に交差する 街角には誰一人存在しなくなった まるで誰かの涙のように雨が降り注いだ 彼等には帰れる場所があるんだよ 眼鏡屋の軒下で雨宿りをしていた僕に 店から出てきた老人が声をかけた 僕はぼんやりと意識を取り戻した そう、雨なのだ あんたには帰る場所は無いのかい? 老人に云われるまで 僕は自分に帰る場所が無いことに気付かなかった お入り、 珈琲くらい淹れてあげるから。 僕は云われるまま眼鏡屋の中に足を踏み入れた 老人は眼鏡屋の店主らしい 古ぼけた陳列棚には眼鏡のフレームが並べられていた そのどれもが奇妙なデザインをしている あるフレームの柄は螺旋状にぐるぐる巻きになっていたし あるフレームにはレンズをはめる場所が三箇所もあった 時計が付いているフレームを眺めていると