嘆く人々は口をそろえる。「この辺りでは、薬物の過剰摂取で死んだ知り合いや同級生、親族がいない人はいない」。最初は大げさな表現と感じたが、2年ほど取材した実感としては、これは事実だ。 私がアパートを借りたのは、オハイオ州北東部のトランブル郡。かつて製鉄業と製造業が栄えたラストベルト(さび付いた工業地帯)に位置する。2005年の郡内の薬物の過剰摂取での犠牲者は29人だったが、2015年に89人に、16年には111人まで増えた。危機が叫ばれる中で、増加を止められていない。 米国で「オピオイド」と呼ばれる薬物の過剰摂取が深刻な社会問題となっている。オピオイドは医療用鎮痛剤として使われてきたが、常習性が強く、依存症が広がった。ヘロインなどより強力な薬物の過剰摂取に発展するケースも目立つ。 全米で2016年にオピオイドが関連した死者(ヘロインを含む)は、1999年比で5倍に増えた。2000年から201