今回から何回に分けて、翻訳者の頭の中でどのようなタスクが実行されているかをできるだけわかりやすく書いていこうと思います。もちろん、人間の思考様式など十人十色であって、翻訳者と一括りにいってもひとりひとり頭のつくりは違います。ですからこれは、代表例でも最大公約数でもなく、翻訳者の端くれである私の思考回路の一例報告に過ぎません。また、私自身、常に同じパターンで翻訳を行っているわけではなく、そのときそのときでずいぶんとブレがあるのも事実です。さらにいえば、筋道立てて「こうこうこういうアルゴリズム」と説明するのは実はちょっとごまかしで、実際にはたぶんもっと複雑な、あるいは論理のまったく違った回路によって翻訳が行われている可能性もかなりあります。自分の頭の中の運動を、自分自身正確に文字で再現することなどできないのです。 それでもこの作業を行おうと思うのは、常々私のなかに「なんでこの程度のことが自動