松本清張の担当編集者には、各社競って才色兼備の女性を送り込んだという話を何かで読んだことがある。美人を好んだという挿話はさておき、優秀な編集者ぞろいであったことは間違いないようだ。 新書新刊『松本清張への召集令状』*1(文春新書)の著者森史朗さんもその一人。著者略歴を見ると、文藝春秋に編集者として入社し、『別冊文藝春秋』『オール讀物』『文藝春秋』編集長を歴任したあと、取締役編集担当を経て退社されたという。 本書は編集者森さんが清張担当として携わった仕事をふりかえるなかで、なぜ清張があれほどまでに権力に対する憎悪、憤りをあらわにし、それを繰り返し小説で表現したのかというテーマが深く掘り下げられて興味深かった。 柱となる作品は、『遠い接近』という長篇で、そこに描かれた戦時召集が眼目となる。ただし清張の国家権力、あるいは漠然たる権力・権威というものに対する反骨心を実証するため、たとえば「断碑」(