短編集ではなく、連作集となっている本作は、最終章で学生だった主人公の息子が父親となり、ある病院の父の名前の診察券をきっかけとして過去と現在が繋がり、この物語の時間的な奥行きがでてくる。 本作の主人公は通称『兜』といい、家族持ちの殺し屋。殺し屋として最高に腕が立つにもかかわらず、恐妻家で、常に妻を怒らせないように異常なくらい妻にビビっている。 例えば、妻に対する対応術を大学ノート3冊にまとめている。そこには妻の言動に対し、どのようなリアクションを取ればいいのか、妻の態度の変化もフローチャートを混えまとめた、いわゆる『妻の対応マニュアル』である。本人は一生懸命で、第三者的には『一般的な普通の妻なのに、どうしてそんなにビビってるの?』と思うし、またそれは息子の克巳からみても私たち読者と同じように父親は常に母親を恐れているように見えている。妻に対してとる兜の思考・行動・言動と、腕のいい殺し屋のもつ