津上俊哉 1 中国の対米外交を左右する因子 1.1 はじめに-中国政治に潜むもう一人のアクター「民意」 昨今日本のメディア報道をみていると、中国では全てのことが習主席の鶴の一声で決まり、動いているような気分にさせられるが、筆者は、いくら習近平主席に権力が集中したとは言え、それは過度な単純化だと考える。 外交について言えば、最近中国外交官がする驚くほど強硬で戦闘的な「戦狼」発言がしばしば話題になる。中国共産党(以下本稿では「党」と略称する)が人事を通じて外交部に指導、支配を強めるにつれて目立つようになったため、外交官たちが党、とりわけトップである習主席の意向を忖度してそう発言するのだという見方が一般的だ。 しかし、時には「習主席の意向を体しているのか」と訝しく思わせる発言がある。一例を挙げれば、2023年4月に駐仏中国大使盧沙野がテレビ出演して「エストニアなど旧バルト三国は主権国家としての地
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