大橋 幸泰/早稲田大学教育・総合科学学術院教授 2018.9.18 本年6月30日、「長崎・天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコの世界文化遺産に登録されることになった。よく知られているように、17世紀初期から19世紀中期までの間、キリスト教(当該期、キリシタンと呼ばれた)が徳川幕府により禁止されていたにも拘わらず、密かにその信仰を継承していった人々がいた。この世界遺産登録は、その潜伏キリシタンの軌跡を顕彰する行為にほかならないが、この文脈では、キリシタンは江戸時代を通じて禁教・弾圧に耐えぬいた結果、幕末に教団に見出され、明治時代、奇跡の復活を遂げたというストーリーで印象づけられる。 もちろん、キリシタンへの激しい迫害や宗門改制度のような禁教を維持するための仕組み、禁教状況の中で起こった島原天草一揆というキリシタンの武力蜂起は事実であるから、上記の世界遺産登録の前提となったストーリー