はじめに 大学の「社会保障論」の講義の中で、NHKスペシャル「老後破産」を教材に用いると、学生は衝撃を受ける。「なぜ高齢期に、こんな悲惨なことが起こるのか」「社会保障制度はどうなっているのだ」と──。丹念な取材で一人暮らし高齢者の生活を浮き彫りにしたルポは、若者の目を社会に向けさせ、社会のあるべき姿を思索させる力をもつ。 本書が取りあげた一人暮らし高齢者の「老後破産」は、日本の「家族依存型」社会保障制度が大きな岐路に立っていることを示している。日本では、高齢期の貧困、介護、孤立といった生活上のリスクに対して、家族が大きな役割を果たしてきた。しかし、世帯規模が小さくなり、家族・世帯の形態が大きく変わる中で、家族・世帯の支え合い機能が弱体化している。単身世帯(一人暮らし)は、その象徴である。 65歳以上の一人暮らし高齢者数は、1985年から2015年の30年間で、118万人から593万人へと5